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http://mainichi.jp/select/news/20130310k0000m040084000c.html

東日本大震災:福島避難の児童・生徒 学習支援が急務


毎日新聞 2013年03月09日 22時58分(最終更新 03月09日 23時51分)

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仮設住宅の集会所を使った学習支援教室で、大学生に教わりながら算数の問題に取り組む小学1年の女児(左)=福島県二本松市で2013年2月28日、福田隆撮影

 福島県内で避難生活を続ける子供たちの勉強の遅れや意欲の低下が深刻になっている。だが「子供たちの課題は見当たらない」とする自治体もあり、学校や教育現場での認識との食い違いが見られるケースもある。地元市町村が学校からの情報を敏感に吸い上げ、連帯して県や国に支援を求めるなどして、学習上の課題を潜在化させない対応が求められている。【福田隆、石丸整】

 ◇疲れ目立つ子どもたち
 福島県浪江町からの避難者が生活する安達運動場仮設住宅(同県二本松市)の集会所。毎週火曜日と木曜日の午後5時になると、小学生が勉強道具を持って集まる。NPO法人「ビーンズふくしま」(福島市)が開く無料の学習支援教室だ。
 NPOスタッフやボランティアの大学生が先生になり、宿題をこなす。小学5年の女児は「家ではお母さんが忙しくて、勉強を見てもらえない。ここは大学生のお姉さんが教えてくれる。楽しく勉強できる」と話す。
 このNPO法人は昨年4月から、トヨタ財団とパナソニック教育財団の支援を受け、安達運動場など県内4カ所の仮設住宅で学習支援を始めた。4会場計86人が利用登録し、利用率は7〜8割と高い。安達運動場では、仮設住宅に住む小中学生約70人のうち31人が登録。午後5時から6時半までが小学生、午後6時半から8時までが中学生の時間で、小学生は自宅前までスタッフが送る。高校受験を控えた中学3年生には練習問題も準備する。
 ストレスの多い避難生活の中で、子供たちは疲れ切っているという。同NPOによると、落ち着きがない▽集中力が持続しない▽大人の愛情を求める−−といった行動が見られるのだ。スタッフに叱られて集会所を出ていった児童が、そっと戻ってくるなど人との関わりを求めている様子も感じられるという。
 保護者も子供の状況を思い悩む。安達運動場仮設住宅で生活している保護者のうち11人が毎日新聞の取材に応じ、9人が「勉強の遅れ、成績低迷」を悩みに挙げた。仮設住宅での不安定な生活を原因とし、住環境の安定を求めている。「仮設では落ち着いて勉強できない」(小5女子、中3男子の保護者)▽「避難先の学校に浪江の同級生がおらず、授業への不安からか、何をどうしていいのか、子供心に相当なダメージがある」(小6女子の保護者)▽「無職の状態で2カ所に分かれて住む経済力はないので、(浪江町への)帰還を断念するか、娘に(避難先での)進学を諦めてもらうしかない」(中2女子の保護者)−−など、訴えは切実だ。

 ◇自治体の認識に差も
 福島県によると、昨年10月時点の18歳未満避難者数は、3万968人(同4月比859人増)。避難先別では県内が1万3998人(同1784人増)で、そのうち避難元市町村内に3307人。県外は1万6970人(同925人減)だった。
 毎日新聞の自治体アンケートでは、避難生活をしている子供の学習面の課題について「該当なし」とする市町村教育委員会が複数あり、避難者が多く住むいわき市と郡山市は、学習上の課題を問う選択肢に回答がなかった。避難のために転居を繰り返した場合、教委レベルで児童生徒の避難履歴を捉えることは困難で、課題を抱えた子供たちが孤立し、問題が潜在化する恐れもある。
 故郷に戻った子供たちにも課題が見られるという。南相馬市内の中学校で教える教師は「避難先の環境に適応できず、中には不登校やいじめの被害に遭った子供も少なくない」と打ち明ける。
 震災前の友人に再会して心の安定を取り戻す子供もいるが、多くは学業に取り組む状態ではなく、高校入試の倍率が低い相双地区の高校を受験するために帰還する世帯もあるという。避難生活のため学校に通えなかった期間は数カ月に及び、学習の空白期を取り戻せないままの子供も多い。ある小学校教諭は「個別対応が必要なケースがあまりに多く、人手が足りない」と話す。中には、津波で家族を失い、自責の念に駆られ、毎日のように発作を起こす中学生もいるという。
 放射線に対する考え方や今後の生活方針の行き違いなどから、狭い仮設住宅内で両親がいがみ合う様子を目の当たりにし、親への不信感を抱いてしまう子もいるという。ある中学校の養護教諭は「『頭が痛い』と言って保健室に来るなり、涙を流しながら悩みを打ち明ける生徒が多い。2年たっても落ち着くことはない。これからもっとひどくなるだろう」と警鐘を鳴らす。

 ◇マンパワー不足に危機感
 文部科学省は震災後の11年度から、被災した子供の学習支援にあたる教員計約1000人を毎年、追加で配置。12年度は岩手197人▽宮城216人▽福島512人▽茨城31人▽新潟14人−−が加えられた。
 同省幹部は「被災県からの教員の追加配置の要望には100%応えるようにしている」というが、住民の多くが避難している福島県双葉郡を中心に、子供の学習上の課題をきちんと集約することは困難だ。このため同省は昨年12月、双葉郡8町村の教育長をメンバーとする協議会を発足させた。現場で何を求めているか本音を聞き取る必要があると判断したためだ。
 二本松市の仮設住宅で展開するビーンズふくしまの学習支援教室では、開設当初、子供のイライラが爆発し、けんかが絶えなかった。スタッフがマンツーマンで接し、保護者との連絡帳交換も実施。遠足、仮設住宅内での餅つき大会なども開いて、住民からの信頼を得ながら、今では子供を机に座らせる段階までこぎ着けた。元小学校教師で、同NPOの子供支援主任コーディネーターを務める新山伸一さん(56)は、「ここまで来るのが大変だった。教育とは子供たちにとって将来の『道しるべ』になる重要な支援だが、人手が足りない。社会全体で危機感を共有し、対策を打たねばならない」と話している。

 ◇福島県で避難生活を続ける小中学生の課題や希望する対応策
◆子供たちの学習上の主な課題
                小学生 中学生
(1)勉強の遅れ、成績低迷    7   6
(2)学習意欲に乏しい      3   5
(3)意思表示が乏しい      3   4
(4)勉強に集中できない     3   3

◆課題発生の主な理由
(1)仮設や借り上げ住宅の環境 10  11
(2)家庭の教育機能低下     8   5
(3)環境変化への不順応     5   8
(4)親の失業や不安定雇用    5   2

◆課題解決に向けた要望
(1)教師の人員増       12  12
(2)安定した住環境の確保   12  11
(3)スクールソーシャルワーカーなど教師以外の人員増
                 8   9
(4)親の就職相談など家庭への対応
                 4   3

※数字は自治体数。25市町村中23自治体が回答。うち10自治体は「該当なし」と回答し、課題ありとした13自治体の回答をまとめた。


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毎日新聞より転載(す)

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